AIファーストに近づいた、米メディア「Quartz」

映画 her スパイク・ジョーンズ AI イラスト

GoogleのピチャイCEOは「モバイルファースト」から「AIファースト」に標語を変えました。

メディアはこれまで、プラットフォーム、デバイスの変化に振り回されてきました。その法則で言うと、AIファーストはGoogleらプラットフォームが言うだけではなく、メディア側にとっても重要な指針となります。

この新しい流れに対して、早くから動いているメディアがQuartzです。2012年に老舗メディアグループ「Atlantic Media」がモバイルファーストのウェブメディアとして立ち上げてから、革新的な取り組みを行ってきました。
参考記事:プラットフォーム化へ、デジタルメディアの旗手「Quartz」

今回、取り上げるのは、彼らの取り組みの中でもBotに関してです。2016年2月、Quartzは会話型インタフェースでニュースを受け取るiOSアプリをリリースしています。

Quartz チャットボット アプリ

Quartzは、こうしたBotや、AIに対する実験を行っていくため、「Quartz Bot Studio」をナイト財団による24万ドル支援のもと、設置したそうです。
HOW THE QUARTZ BOT STUDIO IS PREPARING FOR THE NEXT ERA OF MEDIA

Quartz編集長で、プロダクトSVP(シニア・ヴァイス・プレジデント)を兼任するザック・スワードさんが、なぜBot Studioを始めたか、Mediumに投稿しています。
Why we’re starting the Quartz Bot Studio

Quartz Bot Studio

この投稿の中で彼は、メディアに訪れるつぎの変化は、デスクトップからモバイルへのシフト以上だと述べています。

新しい時代の核になるのが、Bot(メッセージング・アプリ)とAIで、情報へのアクセスが会話型、声に移行することを意味します。Quartzはそこに備えて、自然言語処理、機械学習、情報処理といったテクノロジーを理解するために、Quartz Bot Studioを立ち上げました。

モバイル最適と言った場合に、スマートフォンだけを意識するのではなく、Homeや自動車など新しいメディアの配信先も含める必要があり、共通するのは声や短いテキスト入力、会話を中心とした情報のアクセスです。そこで、「モバイルファースト」よりも「モバイルネイティブ」と考えた方が適してきます。

モバイル ネイティブ

Bot Studioでの成果は、オープンソースにするなど、公開していく考えで、コラボレーションを希望する人も募集中。Quartzは、メディアでありながら、テクノロジーカンパニーさながらの動きをとっています。

ビジュアル表現はどう変わるか?

最後に、僕の活動に影響しそうな点について。

僕はここ2年あまり、NewsPicksでモバイルにおけるビジュアルを使った記事表現を模索してきました。そのひとつの答えが、デスクトップ時代に多かった一枚絵でわかるような図版・インフォグラフィックに対し、モバイルの縦スクロールにあわせて少しずつ情報が展開していく縦型マンガや絵巻物に近いアプローチのインフォグラフィックです。

モバイル インフォグラフィック

このフォーマットは、画面が小さいスマートフォンではデスクトップのときのように画像全体を一目で見せることができないため生まれました。

しかし、この形もBot、AIプラットフォームが盛り上がる頃には変える必要があります。Quartzのアプリを使っていると、つぎのように複数にわかれた画像が連続したメッセージで送られてきます。

Quartz チャットボット アプリ 2

おそらく将来的には、現在僕がやっているような全部が繋がった縦に長いインフォグラフィックは衰退して、よりマイクロな画像を複数枚用意しておいて、会話の流れに応じて全部見せるのか、小出しにするのか判断しながら提示する形になっていくでしょう。

また、傾向として、声を使って情報にアクセスし、耳で答えを聴くという形も増えると思うので、ビジュアルに対するニーズは変わると思います。

人間と人工知能OSの恋人関係を描いた映画『her』(2013年公開)の世界が僕の想定するイメージに近いです。

映画 her

映画では、だいたいの情報へのアクセスは、声でやりとりし(ヴォイス・インタフェース)、どうしてもビジュアルがないとわからない情報についてだけ、名刺くらいのサイズのデバイスで確認するようになっていました。

インフォグラフィックも、ここぞというときに小さなサイズで提示する方向に進むと考えています。そうなった時に、これまでインフォグラフィックの画像の中で処理してきたストーリー、文脈の形成が、会話の中に移るので外出しされます。

よって、グラフィック・エディターの仕事は、会話のデザインまで広げたストーリーテリングの比重が高まると予想しています。アルゴリズムで実現できるところ、できないところを判断しながら、次の大きな変化に何ができるのか、準備を始めておこうと思います。

プロフィール

櫻田潤
櫻田 潤(さくらだ・じゅん)

プログラマー、システムエンジニア、ウェブデザイナーを経て、2010年よりビジュアルシンキングを運営。あわせて、インフォグラフィックのデザインも始める。2014年、NewsPicksにインフォグラフィック・エディターとして参画。ビジュアルを用いた記事を多数、執筆デザイン。2017年よりNewsPicksのクリエイティブを統括。著書に『たのしい インフォグラフィック入門』『シンプル・ビジュアル・プレゼンテーション』